2015年2月2日月曜日

まさかのポスターやり直し

ゼミ4年の合宿が始まった。

これが最後の合宿となる。


合宿が終わるとすぐに卒業研究発表会。


そしてすべてのゼミ活動が終わる。





(今年の4年の最終ゼミ合宿の様子)


合宿では、グループに分かれて発表原稿のチェックをする。


わかりにくい点を指摘し合うのだ。


そして台本を修正し、よりわかりやすい表現にする。



笹竹ゼミでは、グループ活動を重視しているため、このような方法をとっている。


ゼミによっては、卒業研究は、教員とゼミ生の1対1で進めている。


ゼミ生は、決められた時間に研究室に行き、個別に指導を受けるのだ。

ゼミ生と1対1で、教員が指導した方が効率がよい。

学生は研究室に行けば、すぐに教員の指導を受けられる。


おそらく、笹竹ゼミのように全員集まって卒業研究を行っているところは少ないだろう。

しかし、笹竹ゼミでは、皆で一緒に相談し合い、卒業研究を作り上げていく方法をとっている。


ゼミ生たちの交流を重視しているからだ。


だから、自分の作業を終わらせて、他のゼミ生と交流を持たず、スマホで時間をつぶしながら教員の指導の順番を待つというのでは、笹竹ゼミに入った意味がない。


他のゼミ生と確認しあったり、遅れているゼミ生を助けたりすることが大切なのだ。


合宿では、ゼミ生同士の濃密な交流ができる時間が確保できる。

だから笹竹ゼミでは、合宿を重視している。


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夜になっても、ゼミ生たちは、卒業研究の台本の修正をしていた。


次々をゼミ生たちが私の部屋に来て、表現がわからないところの指導を求めて来る。


そのうち、A子とB子とC子の3人がそろって、私の部屋にやって来た。


A子が言った。


「先生!重大なミスに気がついた!」


A子が発表練習をし、B子とC子が表現をチェックしていったところ、分析結果がおかしいことに気がついたというのだ。


その説明を聞いてみると、確かにおかしい。


データ分析が間違っている…


私も見逃していたのだ(実は、よくあることだが…)


ヤ、ヤバイ!


卒業研究発表会はもうすぐだ。


今から、ポスターの下図を作り直し、発表原稿も修正し、しかもそれを覚えなければならない。


時間が足りない…


A子は焦っていた。


しかし、やらざるを得ない。


時間がないので、私が分析をし直してあげることにした。


「A子、データは持っているか」


「データがない…あっ、ゼミのUSBに入っているかも」


幸いなことに、USBにA子のデータが入っていた。


私がパソコンを立ち上げて、急いでデータの分析をする。


有意差も出て、なんとか使える結果が得られた。


よし、これでいこう。


私は結果をグラフに示し、その解釈も教えて、これらをメモしてA子たちに渡した。


「この結果をもとに、ポスターの図を考え、発表原稿を修正してごらん。」


この時、夜の午後11時を過ぎていた。


3人で、熱心な話し合いが続いている。





(3人で深夜まで話し合いが続いた)


私はその話し合いにはほとんど加わることはなかった。


この3人は、昼間から熱心にグループで力を合わせており、最後まで3人にゆだねようと思っていた。


この話し合いは、深夜1時まで続いた。


結局、ポスター3枚のうち、2枚を修正することになった。

A子が私の部屋から出るとき、言った。


「今から部屋に戻って、パソコンでポスターの下図を作り直します。」


睡眠を削ってまで作業を進め、早く皆に追いつきたいのだろう。


根性を出しているA子がいた。







(根性を出して頑張ったA子)


結局、A子は、午前4時までかかって、パソコンでポスターを作成していた。


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このように、あわただしく合宿は過ぎていった。


ゼミ生は、精神的に追い詰められていて、皆ストレスを抱えていた。

ストレスを発散したかったのだろうか、突然、D子がステージで踊り出した。

この会場には、宴会用のステージがあった。

そのステージに上り、D子は音楽に合わせて、ソーラン節を踊っていた。

なぜソーラン節なのかは、不明である。




(突然、ソーラン節を踊り出したD子)


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翌朝…


午前9時に私の部屋の電話が鳴った。


寝ぼけた声が聞こえる。


「先生~、目覚まし時計をかけ忘れて、皆、寝坊しました~」


「仕方ないな、開始を1時間遅らせよう」と私は言った。


聞いてみると、なんと、ほとんどのゼミ生は、午前3時頃まで発表練習をしていた(ただし2名は、ぐうぐう寝ていたらしい)。


ゼミ生たちは、夜になるとやる気のスイッチが入るようだった。


合宿の最終日は、発表の試験を行うことになっていた。


私の前で発表して、途中で止まったり、いい間違えをした場合は、その時点で不合格という過酷な試験だ。


ゼミ生たちは、その過酷な試験のために、頑張っていた。






(過酷な試験が始まった)


皆、仕上がりは順調だった。



あのA子は、ポスターを完成させていた。


グループのメンバーが、自分の発表練習をせずに、A子のポスターの色塗りをしてくれたのだ。

A子は皆に追いつき、もくもくと発表練習をしていた。

一時はどうなることやらと思ったが、A子は根性を出してがんばり、それをグループのメンバーが一生懸命、支えてくれた。

チームワークのおかげでここまで来れた。

皆、よくがんばったね。




2015年1月26日月曜日

さらば演習室

新年になって授業が始まると,ゼミ4年生たちは忙しくなる。

卒業研究の発表練習の合宿が近づいてくるからだ。

それまでにポスターと台本を完成させないといけない。

笹竹ゼミほど,発表練習に力を入れているゼミはないので,皆「他のゼミがうらやましい」と内心思っているはずだ。

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ある日の研究室。

ポスターを作成するために,ゼミ4年生が集まってきた。

お昼になって,皆カップラーメンを食べている。

しかもビックサイズ。

皆でラーメンを食べると,すする音がすごい。

「ズル,ズルズル,ズルー」



(ズルーと皆でカップラーメンをすする)


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さらに別の日。

研究室ではA子とB子がポスターを作成していた。

その日,夕方から会議が入っていた。

会議はすぐに終わるだろうと思い,私はゼミ生たちに会議に行くとは言わず,出かけた。

その会議,なんと4時間半もかかり,研究室に戻ったのが午後7時だった。

学生たちは,私にポスターの指導をしてもらうために,ずっと待っていたようだった。

しかし,私がなかなか研究室に戻ってこないので,待ちくたびれて,すでに帰っていた。

研究室のドアには,張り紙がしてあった。

「どこに行ったの,逃げたの,もう帰ります」

メールをすればよかったと反省した。


(研究室のドアに張り紙が…)


しかし…

研究室に入って「おや」と思った。

隠してあったインスタントラーメンが本棚に置いてある。


(隠してあったインスタントラーメンが、なぜか本棚に…)


しまった!


2個隠してあったインスタントラーメンの内,1個が被害にあっていた。

きっと待ちくたびれて,お腹が空いて,研究室を探し回ったところ,インスタントラーメンを発見したので,食べてしまったのだろう。

A子とB子なら,やりかねない。

油断をしてしまった…


ちなみにA子たちには,干し芋も食べられた。

干し芋のような昔の食べ物を,現代の学生が食べるはずがないと思い,研究室の机の上に置いておいた。

しかもビニールにいっぱい干し芋。

それをA子たちはむしゃむしゃと食べてしまった。

干し芋には手を付けないだろうと思っていたのだが…

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ただ多少の罪悪感があったのだろうか,B子はゼミ生に配ったお土産の残りを研究室に置いていった。

箱には「先生,食べていいよ。毒入りチョコレート」と書かれてあった。



(毒入りチョコレートと書かれたお土産)


C子も,私のためにわざわざお菓子を買ってきた。

最近,私はC子たちに,研究室に置いてあるエスプレッソマシンで,エスプレッソをご馳走していた。

C子はこのエスプレッソが気に入り,研究室に来るたびに,エスプレッソを飲んでいた。

そのお返しのつもりで,お菓子を買ってきたのだろう。



(チョコレート菓子とエスプレッソ用のシュガー)


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演習室が活気を帯びている。

乱雑なテーブルの上。

皆,自分の作業に取り組んでいる。


(演習室での最後のゼミの様子。乱雑なテーブルの上。)


もうすぐ最後のゼミ合宿。

そして2年間過ごしたこの演習室ともお別れだ。

皆でいろいろなことを語り合い,卒業研究で皆と一緒に苦しみ,そして先生にむかついたこの演習室。

昼になると,皆でカップラーメンをズルズルと食べていた。

この演習室には,さまざまな思い出が残っている。

この演習室で,皆が顔をそろえてゼミが行われることは,もうない。

2015年1月10日土曜日

プリクラは大切な宝物

もうすぐ大晦日だというある日…

午後6時、金山のマツキヨの前。

ゼミ14期生の顔がそろう。

昨年に引き続いて年末の同窓会。

今回は6人が集まった。

卒業してから2年ぶりに会うゼミ生がいた。

久しぶりに会った私の顔をじろじろ見て

「なつかしい…」とつぶやいた。

今回の同窓会の会場は、ホルモン焼きの店だった。






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ひとりひとり近況を尋ね、皆それなりに元気に仕事をしていることがわかり、安心する。

やがて、大学時代の苦労話が出る。

健康心理学のテスト勉強がたいへんだったこと。

試験の時間に手が痙攣したこと。

健康心理学とバイオメカニクスの試験が同日になり、バイオメカニクスは捨てたことなど…

おそらく、健康心理学のテストの苦労話は、誰もがもっていることだろう。


そして卒業研究の苦労話も出る。

発表の前の合宿の時、ポスターの描き直しと言われて、「先生なんて、大嫌い」と怒ったA子。

卒業研究の厳しい指導の不満の愚痴を、芹澤先生に聞いてもらったら、逆に怒られてしまったB子。

皆、懐かしそうに話す。

そして、現在の仕事の苦労話も出る。

仕事で疲れて、入浴前に脱衣所で寝てしまったA子。

趣味を聞かれると、「寝ること」と言えるぐらい、休日は寝て過ごすB子。

皆、夜遅くまでハードに働いている。


ただ、皆、苦労しながらも、たくましく乗り切ってきたらから、今話せるのだと思う。



もうすぐ、今の4年生が大学を卒業して、社会に旅立っていく。

社会の厳しさに耐えられるだろうかと、4年生の顔を思い浮かべる。

卒業研究での俺のやさしい指導でさえ、ぷいとふくれてしまうほどひ弱なのに…



同窓会が終わって、皆でプリクラに行く。

金山でゼミのコンパがあると、いつもプリクラを撮りに行った。

昔も今も、どの期のゼミも、プリクラを撮りに行った。

当然、私も連れて行かれる(店に入るとき、いつも恥ずかし思いをするが…)

これまでの多くのプリクラの写真を、大切に保管している。

だって、ゼミ生たちが、普段よりもめちゃくちゃ美しく写っているから。

どうして、プリクラって、こんなに美しく撮れるのだろう。



(ゼミ14期生とプリクラを撮った)



ただ写真が小さいのが難点だが。

今日もまた、大切な宝物のプリクラができた。





2014年12月24日水曜日

大雪のなかの忘年会

大雪警報が出て,大学が全面休講になったその日…

大府駅前でゼミ3年の忘年会が開かれた。

授業がないので,皆,忘年会のためだけに,自宅から集まって来た。

本当はキャンセルしたかったのだが,さすがに当日は無理だった。

この居酒屋は,普段はサラリーマンで賑わう。

学生がこの居酒屋で飲むことはほとんどない。

サラリーマン向けだから、この店の料理は美味しかった。




(ゼミ3年の忘年会)

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忘年会が始まって,私の前に座ったA子が語り始めた。

数ヶ月前に彼に別れを言い渡された。

A子は彼に愛情を持っていたが,別れを受け入れた。

彼は結婚を意識していたが,今のA子はそこまでの意識に至っていなかったからだ。

でも,その後も彼は連絡を取ってきて,現在でも会っている。

まだ愛情を持っているような思わせぶりな態度を彼は示す。

そのたびに,A子は気持がときめき,そして切なくなる。

私のこと,どう思っているの?

私はどうしたらいいの?


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すると,そばで聞いていたB子が言う。

「私も,同じような感じ。思いを寄せる彼がいるけど,はっきりしない関係が続いている。でも先生に相談したら,その関係を続けろって言うの。」

このような恋愛の悩みはけっこう多い。

そして私のアドバイスはいつも同じだ。

「はっきりしない関係を続けること。白黒つける必要はない。」

心惹かれる相手の気持ちを思い,相手のわずかな態度や言葉に,ワクワク,ドキドキすることは,心が煌めく瞬間だ。

とっても繊細で,落ち込んだり,幸せを感じたり,浮き沈みは激しいけれど,美しく輝いている瞬間だと思う。

交際していないだけに,純粋な愛が経験される。

でも…

交際が始まると,俗的な悩みが出てくる。

彼は浮気をしていないか…

長男だけど結婚はうまくいくか…

そしてマンネリ化してきて,刺激が乏しくなってくる。

こんな持論をゼミ生相手に話をする。

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するとC子が反論する。

「私,マンネリ化しているかもしれないけど,でも彼と一緒にいると,心が落ち着くんです…」

C子は年上の彼と交際している。

数ヶ月前に彼と別れたが,彼に精神的に依存していることを自覚して,交際を復活させている。


たしかに,女の子はこのような場合がある。

交際する彼ができると,心が落ち着くのだ。

でもワクワク感はないが,おそらく,それはマンネリ化とは言わない。

マンネリ化とは,心が落ち着きすぎて,むしろ退屈で,話題がなくなる状態のことだ。

彼にあれこれと話すことが一杯あり,それを話すことで心が落ち着くのであれば,ワクワク感がなくてもいいと思う。

でも,私の年齢になると,やはりドキドキする切ない恋がとても貴重に思える。

それは,青春時代にしか体験できないからだ。

だから,無理して,交際に持ち込むことはない。

ドキドキする切ない恋を大切にしてほしいと思う。

2014年12月23日火曜日

葬られた先生

今年も卒業研究の提出する日がやってきた。

私は,朝から夕方まで,学科のすべての学生の卒業研究の書式をチェックする。

大変な作業であることは自他共に認めるところだ。

単に書式のミスを指摘するだけでは,学生の怒りをかってしまう。

なぜこの書き方がミスなのかを,納得するように説明する必要がある。

さらにミスの指摘のしかたもむずかしい。

単純なミスであっても,ミスはミスとして指摘しないと公平さは維持できない。

わずかなミスである場合は,心苦しいときもある。

しかし,楽しい一面もある。

ゼミによって雰囲気はかなり違う。

書式ミスがなく卒業研究が受理されると,ガッツポーズが出て,ゼミ全員から拍手をもらい,盛り上がるゼミもある。

そうかと思えば,淡々と卒業研究を提出してくるゼミもある。

また私の前に座ると,まるで仏様を拝むかのように,両手を合わせて「どうか合格しますように」とぶつぶつ言う学生もいる。

あるいは「先生,寒くないですか。エアコンの温度を上げましょうか」などと,妙に気をつかってくる学生もいる。

なかなか楽しい。

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笹竹ゼミでは,書式ミスは自分で見つけるように指導している。

手をかけすぎると,学生は甘えてしまって,自分で書式ミスを見つけようとしないからだ。

いよいよ卒業研究の提出の当日。

本文では,ゼミ生4人に書式ミスがあり,再提出となった。

抄録では,ゼミ生6人に書式ミスがあり,再提出となった。

再提出になった学生は、むすっとした表情で演習室に戻り、訂正することになる。

演習室のホワイトボードには、こんな落書きがあった。

私がゼミの時間に、もっとしっかりと書式ミスを確認してほしいという気持が表現されていた。


(書式ミスをもっとしっかり確認すべきという意味の落書き)



特に抄録の再提出となると,先着順になるため長い行列ができ,提出まで約2時間待ちとなる。

事情を知らない3年生以下の学生は、この長い行列に驚いていた。




(再提出を待っているゼミ生たち)


再提出の受付が始まった。

私は片手に定規を持って、学生たちの本文や抄録をチェックする。

私がこの定規を使って余白を測定したり、行数を数え始めると、学生たちは緊張するという。



(再提出の受付風景。私の右手には定規がある。前に座っているのはゼミ生たち)


ゼミ生の再提出を受け付けるとき,その様子を私がビデオカメラで撮影しようとすると…

「こんなところ撮らないで,早く見てください」とゼミ生は言った。




(「こんなところ撮らないで、早く見てください」というゼミ生)



午後6時過ぎ。

すべての作業が終わった。

ゼミ生たちはすでに帰って,演習室には誰も残っていなかった。

鍵を閉めようと,演習室に入ってみたところ…

ホワイトボードには落書きがしてあった。

お寺の絵が描かれ,その横にお札が描いてあった。

再提出となったゼミ生が怒って書いたのだろう。

私を葬ろうとしている。



(ホワイトボードに描かれたお寺の絵)



(なんと御札まで作られていた)


「ほう,なかなかおもしろいじゃあないか」

私に対する怒りを,このように表現するとはユニークだと感心した。

さっそく私は写真に撮った。


後日,ゼミの時間に、ゼミ3年生たちはこの絵を見た。

しかし,この絵が描かれた背景がわからず,「気味が悪い絵」と言っただけで,何の関心も示さなかった。



渋谷のイタリアンの居酒屋にて

東京渋谷。

JR渋谷駅から徒歩5分のところに,その店はあった。

本通りから1本外れた裏通りのため,比較的落ち着いた通りである。

午後5時。

開店を待って,その店のドアを開けた。

客はまったくおらず,カウンターの向こうに店員2人がいた。

若い店員が私を見て微笑んだ。

今年卒業したゼミ生のA男だった。

渋谷でイタリアンの居酒屋の店長をしていると人づてに聞いて,訪ねたのだった。



(店内にて A男)


A男は,大学時代から,将来は自分の店を持ちたいと夢を語っていた。

就職活動では,迷わず東京の飲食関係の会社を選んだ。

まじめに働いているらしく,渋谷の店は2店舗目であり,店長を任されている。


隅の席に座って,A男のおすすめの生ハムとビールを注文する。

A男の雰囲気は,まだそれほど変わっていない。

ただ少し太ったかな。

仕事はなかなかハードなようだった。

深夜に帰宅し,昼過ぎに出勤。通勤に約1時間かかる。

それでも「楽しいから,それほど疲れませんよ」とA男は言う。




(カウンター内で働くA男)


もう一人の店員は,ゼネラルマネージャーで,A男の上司というので,席を立って挨拶に行く。

「厳しく指導してやってください。A男は,気が乗らないと,だらだらしますから」

大学時代,卒業研究をやる気がしないとだらだらし,締め切りに間近になって,他のゼミ生に助けてもらって何とか提出にこぎ着けたという前科があった。

「卒業研究は地獄でした。本当にきつかった。でも今から思うと,卒業研究をやってよかったと思っています。」

A男は神妙な顔をして言った。

卒業研究によって,世の中の厳しさを多少知ったのだろう。

********

お腹が空いていたので,スパゲティを注文する。

カウンターの向こうで,なにやらA男が調理を始めた。

けっこう時間がたってA男がスパゲティを運んできた。

「自分が作ったスパゲティは,上司はまだまだダメだと言うんですが…」

食べてみて,確かに今ひとつだった。

「麺はもっと堅めがいいな。スープが残りすぎだな。」

私は遠慮なく言った。

A男はプロなのだから,客としての意見をはっきり言わないといけないと思った。



(A男のつくったスパゲティ)


********

「彼女はいないの?」

私が突然切り出すと,

「いませんよ。」との返事。

「前の彼女とは,よく続いたな。もっと早く別れると思っていたが」

「でも…ガチで好きだったんですよ…~」

A男の胸の内を語ってくれた。


その後,カウンター内で働き始めたバイトの女の子を見ながら,

「あのバイトの女の子,かわいいし,とっても気がつくし,いい女の子ですよ。でも彼がいるんですが…」

とA男は残念そうな顔で言った。

仕事を一生懸命やっているだけに,心を癒やしくれる彼女がほしいのだろうと思った。

*********

帰り際,A男は「美味しそうなリンゴがあるので,持って行ってください。」と言って,リンゴを1個渡してきた。

大きくて美味しそうなリンゴだった。

A男の気持が詰まったリンゴに思えた。




(二人で記念撮影をした)


店から出ると,外はすでに真っ暗になっていた。

店の看板に明かりが灯っていた。




この店が繁盛し,いつかA男の店が持てることを祈って,渋谷駅に向かった。

先生に仕返し

熱気ある演習室。

皆黙々と卒業研究に取り組んでいる。





(今年のゼミ4年の卒業研究の様子)

今年の4年生は優秀な学生が多い。

それでも皆卒業研究に苦しんでいる。

ゼミ生の提出してきた本文を読んで,私が評価する。

私がなかなか合格を出さないので,皆イライラしている。

おまけに私が授業や会議に出席するために不在になることが多く,指導を受けられないので皆困っている。


*********

ゼミのある日,5限に精神保健の授業があった。

私が授業に行っている間,指導を受けることができない。

そのためゼミ生たちは,授業を休講にしてほしいという。

そんなことはできない。

それなら,早く授業を終わって戻ってきて欲しいと言う。

そんなこともできない。

授業に出てみると,この授業を受講しているゼミ4年生が一番前の席に座っていた。

なんと「授業を早く終われ」という紙を机に貼っている。





(教室の一番前に座っているゼミ生)


*********

ある日…

私が会議で研究室を留守にしたことがあった。

その時,研究室にはA子,B子,C子がいた。

そして,私の悪い予感は当たった。

会議が終わって戻ってきてみると,隠してあったビスケットとチョコパイの袋がテーブルの上にあった。



(隠してあった大切なお菓子が…)



それを、ゼミ生たちは美味しそうに食べていた。

「俺のお菓子が…」

「いいえ,違います。私たちが買ってきたお菓子です」(キッパリ)

「実は,お菓子の袋に密かに印を付けてあるんだ」と私がデタラメを言うと…

A子は袋を手に取って探し始めた。

「やっぱり,俺のお菓子じゃあないか」



ゼミ生たちは,すなおに認めたものの,こう言った。

「先生のパンとポタージュの素を、この部屋のどこかに隠したので,探してごらん」

この発言にはある意味が隠されていた。


卒業研究の書式ミスがあっても,私はそれを具体的に指摘せず,「どこにあるか,探してごらん。」と言っていた。

ゼミ生たちが「わからないので,教えてください」と言うと,

「中学生でもわかるミスだ」と突っぱねていた。





(ホワイトボードのゼミ生の落書き)



ゼミ生たちは,ミスを探す作業にイライラしていた。

この仕返しをしようとしているのだ。

書式ミスを探し出すことがたいへんなので,私に探し出す苦労を味合わせようとしているのだ。

私がパンと
ポタージュの素を探している様子をゼミ生たちは面白がって,スマホで写真に撮っていた。



(この穴の中にパンが隠されてあった。)




(本の間にポタージュの箱が…)



*********


こんな調子で,ゼミ生たちは卒業研究に取り組んでいた。

大学の最終バスに乗れなかったことは,何回もあった。

D子は,他のゼミの学生に捕まり,パソコン室で書式を整える作業に付き合わされていた。

午後10時になってやっとD子は研究室に戻ってきた。

疲れた顔をしている。

「先生,私たちをタクシーで駅まで送るか,ピザまんをおごるか,どちらがいいですか。」

D子は無情な要求を突きつけてきた。

つい,かわいそうになって「うーん,ピザまんかな」と私が口にする。

ゼミ生3人と一緒に,共和駅まで歩き,その途中のコンビニでピザまんを買うつもりであった。

しかし列車の発車時刻が迫っていたので,時間的余裕はなく,ピザまんを買うことはできなかった。

皆疲れた顔つきで,電車に乗り込んだ。





(大府駅にて 午後10時30分頃)


卒業研究は、やっぱり今年もたいへんだった。