私は,朝から夕方まで,学科のすべての学生の卒業研究の書式をチェックする。
大変な作業であることは自他共に認めるところだ。
単に書式のミスを指摘するだけでは,学生の怒りをかってしまう。
なぜこの書き方がミスなのかを,納得するように説明する必要がある。
さらにミスの指摘のしかたもむずかしい。
単純なミスであっても,ミスはミスとして指摘しないと公平さは維持できない。
わずかなミスである場合は,心苦しいときもある。
しかし,楽しい一面もある。
ゼミによって雰囲気はかなり違う。
書式ミスがなく卒業研究が受理されると,ガッツポーズが出て,ゼミ全員から拍手をもらい,盛り上がるゼミもある。
そうかと思えば,淡々と卒業研究を提出してくるゼミもある。
また私の前に座ると,まるで仏様を拝むかのように,両手を合わせて「どうか合格しますように」とぶつぶつ言う学生もいる。
あるいは「先生,寒くないですか。エアコンの温度を上げましょうか」などと,妙に気をつかってくる学生もいる。
なかなか楽しい。
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笹竹ゼミでは,書式ミスは自分で見つけるように指導している。
手をかけすぎると,学生は甘えてしまって,自分で書式ミスを見つけようとしないからだ。
いよいよ卒業研究の提出の当日。
本文では,ゼミ生4人に書式ミスがあり,再提出となった。
抄録では,ゼミ生6人に書式ミスがあり,再提出となった。
再提出になった学生は、むすっとした表情で演習室に戻り、訂正することになる。
演習室のホワイトボードには、こんな落書きがあった。
私がゼミの時間に、もっとしっかりと書式ミスを確認してほしいという気持が表現されていた。
(書式ミスをもっとしっかり確認すべきという意味の落書き)
特に抄録の再提出となると,先着順になるため長い行列ができ,提出まで約2時間待ちとなる。
事情を知らない3年生以下の学生は、この長い行列に驚いていた。
(再提出を待っているゼミ生たち)
再提出の受付が始まった。
私は片手に定規を持って、学生たちの本文や抄録をチェックする。
私がこの定規を使って余白を測定したり、行数を数え始めると、学生たちは緊張するという。
(再提出の受付風景。私の右手には定規がある。前に座っているのはゼミ生たち)
ゼミ生の再提出を受け付けるとき,その様子を私がビデオカメラで撮影しようとすると…
「こんなところ撮らないで,早く見てください」とゼミ生は言った。
(「こんなところ撮らないで、早く見てください」というゼミ生)
午後6時過ぎ。
すべての作業が終わった。
ゼミ生たちはすでに帰って,演習室には誰も残っていなかった。
鍵を閉めようと,演習室に入ってみたところ…
ホワイトボードには落書きがしてあった。
お寺の絵が描かれ,その横にお札が描いてあった。
再提出となったゼミ生が怒って書いたのだろう。
私を葬ろうとしている。
(ホワイトボードに描かれたお寺の絵)
(なんと御札まで作られていた)
「ほう,なかなかおもしろいじゃあないか」
私に対する怒りを,このように表現するとはユニークだと感心した。
さっそく私は写真に撮った。
後日,ゼミの時間に、ゼミ3年生たちはこの絵を見た。
しかし,この絵が描かれた背景がわからず,「気味が悪い絵」と言っただけで,何の関心も示さなかった。