ゼミ3年生が次々と私に声をかけてくる。
「先生! 履歴書を見てください」
「先生! エントリーシートを見てください」
年が明けて、ポスター制作、ゼミ合宿、卒業研究発表会と忙しかった。
ずっと4年生に付添ってきた。
考えてみれば、ゼミ3年生は就職活動の戦いが始まっていた。
次は3年生の面倒をみなければ…
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ある日の研究室。
研究室にゼミ3年が続々と集まってくる。
エントリーシートを書くゼミ生もいれば、教職の勉強をするゼミ生もいる。
(↑ 研究室で頑張るゼミ生たち)
A子が質問してきた。
A子「先生、趣味の欄に、歌を歌うって書いて、おかしくないかな。」
私「そうだな~、まっ、いいんじゃないの。」(ランチの後のデザートを食べながら)
するとあるゼミ生が口をはさむ。
「歌が上手って、うらやましいな。私、カラオケ行っても歌いたくない。」
A子「私は歌が好きだから、平気で歌えるよ。ここでも歌えるよ。」
皆「え~、歌って、歌って」
調子に乗せられたA子は、机の上にあったペットボトルをマイク代わりに取り上げた。
A子「先生でも知っている古い歌を歌います。」
A子は「津軽海峡冬景色」を歌い始めた。
~♪♪♪ 上野発の夜行列車降りた時から、青森駅は雪の中 ♪♪♪~
(↑ 研究室で歌うA子)
豊かな音量と伸びのある低音の声。
なかなか雰囲気がある。
研究室で歌を歌ったのは、A子が最初だ。
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その週の日曜日。
研究室にはB子とC子の姿があった。
日曜日だが、私が野球部の仕事で大学にいるので、わざわざ大学に来たのだった。
(↑ エントリーシートを書くB子とC子)
二人は6時間も研究室で、エントリーシートに取組んでいた。
二人が帰った後、私の机の上を見ると、なんと…
私が楽しみにしておいたお菓子の「カントリーマアム」の袋が開いている。
(↑ 袋が破られてあった)
「しまった! やられた!」
私が印刷室に行っているスキを狙って、このお菓子を食べたのだろう。
お菓子を見えるところにうっかり置いたことはうかつだった。
しかし、まさかこの二人が犯行におよぶとは想定外だった。
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数日後、B子を問い詰めた。
私「カントリーマアムの袋を開けたのは、B子だろう。」
B子「違います。C子ですよ。」
私「そうかな~。C子はおとなしいので、そんなことするかな。」
B子「先生の前ではおとなしいだけです。C子は、裏のボスと呼ばれています。」
私「裏のボス? そりゃすごいな。」
B子「先生は人を見る目がないですね。だから4年生がゼミ内で交際しても見破れないんですよ。」
う~ん、B子とC子を比べたら、B子の方が怪しいと思うけどな。
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そのまた数日後…
再びB子がD子と一緒に研究室にやって来た。
B子は、今日は、健康運動実践指導者の試験勉強をするという。
同じ過ちを繰り返さないように、その日、私はお菓子を隠してあった。
目に付くところには置かず、ケースに入れて、さらにケースの上にも他の物を置いて隠した。
これなら見つかる心配はないだろう。
この日は教授会があった。
私が研究室を出たとたん…
(ここからは後でわかった話)
B子が立ち上がり、私の机の付近まで来た。
いつものところにお菓子が置いてなかったので、B子はお菓子を探し始めた。
なんとゴミ箱の中までもお菓子を探した。
なかなかお菓子が見つからない。
そばにいたD子が知恵を出す。
D子「先生は、さっき、そのあたりで何かをしていたよ。」
D子の入れ知恵のおかげで、ついにお菓子の入ったケースを探し出した。
二人は、机の上にお菓子を並べ、食べ始めた。
(↑ 探し出したお菓子を食べるB子とD子)
な、なんというゼミ3年生たち!
お菓子をめぐる戦いが、今年は多くなりそうだ。