2014年1月9日木曜日

チョコパイをめぐる攻防

昼休み…
 
研究室でランチを食べていると、ドアを激しくノックする者がいる。
 
こんなに乱暴にノックするのはゼミ生に決まっている。
 
やはりゼミ3年生のA子が入ってきた。
 
今日はおしゃれな私服姿。
 
夕方に新年会があるという。
 
A子は研究室に入るなり、
 
「先生、ここで着替えていいですか。これから武道場で授業があるのです。」
 
と言った。
 
もうすぐ昼休みが終わって授業が始まるので、急いでいるのだろう。
 
「いいよ、着替えている間は、俺はこっちを向いていればいいんだな。」
 
と言うと、
 
A子「どちらでもいいです。」(さばさばとした雰囲気)
 
私「・・・・・・・」
 
着替えを見られてもいいっていうこと?
 
もちろん、私はうつむいてランチをもくもくと食べていた。
 
A子は着替え終わったらしく、
 
「脱ぎっぱなしだけど、いいですね。それから先生のスリッパ借りていいですね。借りていこうっと。」
 
と言いながら、荷物を置いて、あわたただしく研究室から出て行った。
 
A子が研究室に入ってきて出ていった間は、わずか5分程度。
 
あっという間の出来事だった。

*******
 
やれやれと思ったその時…
 
またもや研究室のドアを叩く者がいる。
 
今度はゼミ4年生のB子とC子だった。
 
B子・C子「先生、合宿までに卒業研究の何をやればいいの?」(のんきな雰囲気)
 
私「ポスターの下書きを描いて、それから印刷して、それから発表原稿を作って~」(いかにもたいへんだぞという雰囲気)
 
B子・C子「え~、たいへんそう~」
 
私「まっ、間に合わなければ、2月上旬に特別発表会に延期してもいいけどね。」(嫌味っぽく)
 
B子・C子「そんなの、無理、無理」
 
私「それなら、今日やるんだな。」
 
そこでB子とC子は、卒論をやる気になったようだった。
 
そこにD子も加わって3人で卒論をやり始めた。
 
********
 
私が大学院生の指導で、10分程度研究室を留守にして、戻ってくると…
 
3人がチョコパイを食べている。
 
実は、チョコパイを買って研究室の書棚の下に置いてあった。
 
ただし、その上にバックなどを置いて、見つからないようにしてあった。
 
まさか、私の大切なチョコパイを…
 
私は心配になって言った。
 
私「これ、俺のチョコパイだろう?」
 
B子「違います。」(きっぱり)
 
正直に白状しないので、
 
私「あっ、全部チョコパイが食べられている!」(悲しそうな声で)
 
D子「えっ、全部!」(おどろいた表情で)
 
B子「違うよ!何個か残して持ってきたから」(あわてて)
 
私のチョコパイを探し出し、皆に配ったのはB子であることが判明した。
 
D子「なんだ、先生の言うことは信用できんな!」
 
私「それはこっちが言うセリフだよ。」(食べたことを正直に白状しなかったくせに)


(↑ ゼミ生に食べられたチョコパイ)

 
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3人はチョコパイを食べてはいるが、卒論はあまり進んでいないようだった。
 
C子「先生~、どうやってポスター描いたらいいの~」
 
C子はすぐに教えてもらおうとする。
 
私「そんなに媚び売っても、俺が教えると思う?」
 
C子「私、先生がそばにいないとできないもん」
 
C子に限らず、ゼミ生たちは様々な理屈を持ち出して、教員にやらせようとする。
 
それを、いわばアメとムチで、ゼミ生たちに自分で考えさせようとするのが教員の仕事。
 
年が明けて、再びゼミ生たちとの戦いが始まった。

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しかし…
 
私はわかっていた。
 
ゼミ生たちがわいわい言いながら卒論をやるのは、もう数週間だけだということを。
 
卒業研究発表会が終われば、ゼミ活動は終わる。

ゼミ生全員が集まることは、もうないのだ。

その寂しさは、この時期の4年生には自覚できないだろう。

目の前にある卒論のことで、頭がいっぱいだから。

でも、私にはわかっていた。毎年経験しているから。

だから…

年が明けると、私の心の中に寂しさが漂い始める…