2013年12月13日金曜日

午後10時の演習室


卒業研究の本文の提出が迫っていた。

今年の4年生は,特に取り組みが遅い。

本文の締め切りに間に合わない危険性があるゼミ生が4~5人いる。

特に危険性の高いゼミ生とは…

 

A男は,愛想はよく皆から好かれているが,根気がない。

卒業研究をやらずに,すぐに遊んでしまう。

授業もよくサボったので,4年になってから30単位も取らないといけない状況だ。

B男は,能力的には高いのだが,無気力状態。

やる気が出ないと言って,卒業研究をやろうとしない。

C子は,愛想は抜群で,ゼミの最中に調子に乗って踊ったりするなど,にぎやかだ。

でも集中力がなく,卒業研究をやらずに,すぐに遊んでしまう。

 

この3人は卒業研究が間に合わない危険性が高いので,保護者に電話した。

「あの~,〇〇さんは,その~,卒業研究の取り組みが悪くて,締切が迫っているのですが,間に合わない危険性があります…」

保護者に電話するなんて,普通はしない。

する必要はないのかもしれない。

大学4年生は20歳を過ぎた成人であって,子どもではないのだから。

ただ親の立場になって考えると,卒業できないとなれば,大学から正確な情報を事前に教えてもらいたいと思うはずだ。

だから3人のゼミ生の保護者に電話した。

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そして,締め切りが迫ったある時,A男に再度言い渡した。

「卒業研究は間に合わない。卒業はできない。」

するとA男は怒り出した。

机を数回たたき,声を荒げて,

「先生の指導が急に丁寧になった。なぜこれまで丁寧に指導しなかったのか」

こんなA男を見たのははじめてだった。

 

その日の昼休みに,私が歯を磨いていたら,A男が寄って来て言った。

「さっきは,むきになってすみませんでした。」
 

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その日の夜…

B男のアパートの部屋。

ゼミ生4人が集まっていた。

A男,B男,そしてD子とE子だった。

卒業研究がかなり遅れているA男とB男を助けようと,D子とE子が応援に駆けつけたのだ。

A男とB男は協力しあいながらデータを入力し,D子とE子が分析方法を教えた。

D子とE子は、卒業研究を午前1時頃まで手伝った。

A男とB男は,その後も寝ることなくパソコンのデータと戦っていた。

 

私がなぜこのことを知っているかと言えば,午後11時過ぎにD子から電話をもらったからだ。

今,B男のアパートで卒業研究をやっていると。

 

おそらく数日間,あまり寝ることなく卒業研究に取り組んだおかげで,A男とB男はなんとか卒業研究の形は整ってきた。

もちろん,内容は乏しいが…,そこは目をつぶった。
 

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125日本文提出の直前のゼミ。

皆あせって卒業研究に取り組んでいる。

普段のゼミから,このような真剣な表情を見たかった…

「〇〇!こんなところで寝ていてはじゃま!」

「〇〇!うるさい!踊らないで!」

あちこちから,声が飛ぶ。

なかなか本文が完成しない。

とうとう午後10時になってしまった。
 

 
(↑ 午後10時頃の演習室の様子)
 
 

どこの研究室も明かりが消えている。

ただ,笹竹ゼミの演習室だけが照明がつき,ゼミ生たちの明るい声が聞こえてくる。



(↑ 午後10時頃の演習室の様子)

 

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1212日木曜日,卒業研究の本文の提出の当日。

提出する会場に,ゼミ生たちが卒業研究の本文を持ってやってきた。

A男とB男,そして自分で頑張ったC子も,卒業研究の本文を持っている。

なんとか間に合ったのだ。

これで卒業できる可能性が出てきた。

もっともA男とB男は,書式の不備のため受理されず,再提出になってしまったが…

 

D子の卒業研究の本文の「おわりに」はこう書かれてあった。

「土壇場になって,ゼミの団結力はすごかった」

 

他のゼミ生のおかげでここまで来れたことを,A男,B男はよく覚えておくんだよ。

ひとりで頑張っていたら,絶対に間に合わないはずだ。

まだ抄録の作成と発表が残っているので,まだ油断できないけどね。