2013年12月21日土曜日

心やさしいゼミ生

卒業研究の本文の提出が終わり、次は抄録の提出。

12月17日火曜日の午後。


ゼミ生4年が、のそのそと演習室に集まってきた。

締め切りが迫っているため、今日中に抄録を完成させなければならない。





(↑ 演習室の様子)


抄録の下書きを見ると、あいかわらずデキはよくない。

書式はかなり不十分。

内容も、特にゼミ一番のサボリ屋のA男は悲惨な状況だった。

午後5時30分になっても完成したゼミ生は数人だけ。

私はこれから会議で、戻ってくるのがおそらく午後8時過ぎ。

私は言った。

「俺が戻って来るまで、遊ばずに、皆で協力し合って抄録を仕上げるんだよ。」

まあ、このゼミ生たちのことだから、遊んでしまうだろうと内心思っていた。

午後8時30分過ぎ、やっと会議が終わって演習室に戻ることができた。

待ち構えていたように、ゼミ生たちが抄録を持ってくる。

抄録を見て驚いた。

合格ラインには届かないものの、完成度はかなり上がっている。

悲惨だったA男の抄録も、とてもわかりやすい文章になっている。

「この前書き、誰かに教えてもらったな。」と思わず口にした。

私が会議で不在にしている間、皆で見せ合い、教え合っていたようだった。

午後9時頃、とうとうA男も合格をもらって抄録を完成させた。

A男は、彼女との待ち合わせの時間に1時間半も遅れ、焦っていた。

「メールを送っても返信がない…」

そりゃ、1時間半も待たされたら怒るだろうな。

「こうなったら、仲直りのためにホテルに行って~」とA男。

「わぁ~、リアル~」と女の子たち。

A男はそそくさと帰って行った。


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多くのゼミ生が抄録を完成させる中…

B男は取り残されていた。

「俺は遅くなってもいい」

B男はそう思って、私が会議で不在にしている間、皆に抄録を見てもらわず、ひとりで取り組んでいた様子だった。

B男の抄録は、皆と比較すると、かなり完成度が低かった。

「この抄録、誰にも見せてないな。」

私は言った。

書式だけでなく,内容の書き方も他のゼミ生とかなり異なっていた。

他のゼミ生が見ていたら,この書き方が違うことにすぐに気が付くはずだ。

この抄録を修正するには,おそらく1時間半から2時間かかると思った。

深夜12時を過ぎてしまう…

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その時,演習室にはB男を含め,4人のゼミ生が残っていた。

その中でA子だけが,すでに抄録を完成させていた。

しかし、帰らずに演習室に残って,皆の抄録の手伝いをしていたのだった。

私はB男に言った。

「A子に抄録を見てもらえ。」

A子はB男の隣に座ると,抄録を手伝い始めた。

 



 (↑ 手伝っているA子:午後9時45分頃)





私がこっそり聞いていると,A子はかなり具体的に指示をしている。

「この部分はね,~のように書いて。」

B男はそのとおりにパソコンに打ち込む。

しばらくして…

 「抄録ができました。」とB男が言った。

私が抄録を手に取り,読み始めた。

すると…

A子が私のそばに来て,体をぎりぎりに寄せ,膝立ちをした。

両手は腰に当てられ、仁王立ち。

威嚇するオーラが私に降り注ぐ。

 「私とB男が一緒に作った抄録を,いちゃもんつけたら許さないわよ。」という無言の圧力。

「わぁ,A子の雰囲気,怖いよ~」と他の女の子が笑う。


その抄録の完成度は高かった。

わずかの時間に,B男の抄録は変貌を遂げていた。

正直言って,A子の実力に驚いた。

いつの間に,抄録の書き方のポイントを身につけたのだろうか…

数か所の手直しで,B男の抄録は完成した。

午後10時20分だった。










(↑ 研究室の時計)





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痛烈に思ったことがある。

やはり自分ひとりで取り組んでいたら進歩は遅い!

皆と協力し合うことが,ここまで完成度をあげるんだ!

もちろん,このことは以前からわかっていた。

だからこそ笹竹ゼミでは,テーマは異なるものの,皆と一緒に作業する寺子屋方式を取っている。

皆が一緒になると,確かに遊んでしまう危険性はある。

しかし,皆が一緒にいれば,助け合うことだってある。

このゼミ生たち全員が,改めて私に教えてくれたことだ。

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 午後11時少し前。

最後まで残ったゼミ生4人と私は演習室を出た。

ゼミ生の車に乗せてもらい,途中でB男をアパートで降ろし,A子とB子と私は大府駅に到着。

名古屋方面の電車が停車している。

A子とB子はあわてて飛び乗った。



ところが…

A子とB子が乗った車両は切り離されており,前方の車両だけが出発。

A子とB子は取り残されてしまった。

「わぁ~,わぁ~,ぎゃぁ~,ぎゃぁ~」

言葉にならない笑い声が,人影が途絶えた大府駅に響く。

二人は,別のホームで次の列車を待つことになった。








 
(↑ 二人の笑い声が大府駅に響いていた)
 




それにしてもA子は心がとても優しい。

ゼミ生を助けてくれてありがとう。

A子に感謝です。