12月17日火曜日の午後。
ゼミ生4年が、のそのそと演習室に集まってきた。
締め切りが迫っているため、今日中に抄録を完成させなければならない。
(↑ 演習室の様子)
抄録の下書きを見ると、あいかわらずデキはよくない。
書式はかなり不十分。
内容も、特にゼミ一番のサボリ屋のA男は悲惨な状況だった。
午後5時30分になっても完成したゼミ生は数人だけ。
私はこれから会議で、戻ってくるのがおそらく午後8時過ぎ。
私は言った。
「俺が戻って来るまで、遊ばずに、皆で協力し合って抄録を仕上げるんだよ。」
まあ、このゼミ生たちのことだから、遊んでしまうだろうと内心思っていた。
午後8時30分過ぎ、やっと会議が終わって演習室に戻ることができた。
待ち構えていたように、ゼミ生たちが抄録を持ってくる。
抄録を見て驚いた。
合格ラインには届かないものの、完成度はかなり上がっている。
悲惨だったA男の抄録も、とてもわかりやすい文章になっている。
「この前書き、誰かに教えてもらったな。」と思わず口にした。
私が会議で不在にしている間、皆で見せ合い、教え合っていたようだった。
午後9時頃、とうとうA男も合格をもらって抄録を完成させた。
A男は、彼女との待ち合わせの時間に1時間半も遅れ、焦っていた。
「メールを送っても返信がない…」
そりゃ、1時間半も待たされたら怒るだろうな。
「こうなったら、仲直りのためにホテルに行って~」とA男。
「わぁ~、リアル~」と女の子たち。
A男はそそくさと帰って行った。
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多くのゼミ生が抄録を完成させる中…
B男は取り残されていた。
「俺は遅くなってもいい」
B男はそう思って、私が会議で不在にしている間、皆に抄録を見てもらわず、ひとりで取り組んでいた様子だった。
B男の抄録は、皆と比較すると、かなり完成度が低かった。
「この抄録、誰にも見せてないな。」
私は言った。
書式だけでなく,内容の書き方も他のゼミ生とかなり異なっていた。
他のゼミ生が見ていたら,この書き方が違うことにすぐに気が付くはずだ。
この抄録を修正するには,おそらく1時間半から2時間かかると思った。
深夜12時を過ぎてしまう…
**********
その時,演習室にはB男を含め,4人のゼミ生が残っていた。
その中でA子だけが,すでに抄録を完成させていた。
しかし、帰らずに演習室に残って,皆の抄録の手伝いをしていたのだった。
私はB男に言った。
「A子に抄録を見てもらえ。」
A子はB男の隣に座ると,抄録を手伝い始めた。
(↑ 手伝っているA子:午後9時45分頃)
私がこっそり聞いていると,A子はかなり具体的に指示をしている。
「この部分はね,~のように書いて。」
B男はそのとおりにパソコンに打ち込む。
しばらくして…
「抄録ができました。」とB男が言った。
私が抄録を手に取り,読み始めた。
すると…
A子が私のそばに来て,体をぎりぎりに寄せ,膝立ちをした。
両手は腰に当てられ、仁王立ち。
威嚇するオーラが私に降り注ぐ。
「私とB男が一緒に作った抄録を,いちゃもんつけたら許さないわよ。」という無言の圧力。
「わぁ,A子の雰囲気,怖いよ~」と他の女の子が笑う。
その抄録の完成度は高かった。
わずかの時間に,B男の抄録は変貌を遂げていた。
正直言って,A子の実力に驚いた。
いつの間に,抄録の書き方のポイントを身につけたのだろうか…
数か所の手直しで,B男の抄録は完成した。
午後10時20分だった。
(↑ 研究室の時計)
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痛烈に思ったことがある。
やはり自分ひとりで取り組んでいたら進歩は遅い!
皆と協力し合うことが,ここまで完成度をあげるんだ!
もちろん,このことは以前からわかっていた。
だからこそ笹竹ゼミでは,テーマは異なるものの,皆と一緒に作業する寺子屋方式を取っている。
皆が一緒になると,確かに遊んでしまう危険性はある。
しかし,皆が一緒にいれば,助け合うことだってある。
このゼミ生たち全員が,改めて私に教えてくれたことだ。
*********
午後11時少し前。
最後まで残ったゼミ生4人と私は演習室を出た。
ゼミ生の車に乗せてもらい,途中でB男をアパートで降ろし,A子とB子と私は大府駅に到着。
名古屋方面の電車が停車している。
A子とB子はあわてて飛び乗った。
ところが…
A子とB子が乗った車両は切り離されており,前方の車両だけが出発。
A子とB子は取り残されてしまった。
「わぁ~,わぁ~,ぎゃぁ~,ぎゃぁ~」
言葉にならない笑い声が,人影が途絶えた大府駅に響く。
二人は,別のホームで次の列車を待つことになった。
A子とB子が乗った車両は切り離されており,前方の車両だけが出発。
A子とB子は取り残されてしまった。
「わぁ~,わぁ~,ぎゃぁ~,ぎゃぁ~」
言葉にならない笑い声が,人影が途絶えた大府駅に響く。
二人は,別のホームで次の列車を待つことになった。
(↑ 二人の笑い声が大府駅に響いていた)
それにしてもA子は心がとても優しい。
ゼミ生を助けてくれてありがとう。
A子に感謝です。