ゼミ3年が顔をそろえる。
皆おしゃれをしている。
今から忘年会。
費用は学園祭の収益金を当てるので、実質1000円の負担ですむ(不足分は私が払うことになっている…)。
サラリーマンが集う居酒屋で、学生にしてはやや高級な店。
掘りごたつだったが、テーブルが狭いので、身を寄せ合って座る。
忘年会が始まった。
酒が進むにつれて、A子がB子に尋ねる。
「彼とどんな風に付き合い始めたの?」
すると…
「告白された時、好きではなかったけど、嫌いではなかったので、付き合うことにした」とB子は言った。
「ええ〜、マジ〜」と私は言った。
好きではないのに交際を始めることは、私には考えられない。
私は疑問に思い、質問を重ねる。
「それって、どいうこと?…」
「男の人に私から告白できないし、せっかく告白されたので、このチャンスを大切にしたいと思って…」
確かに一理はある。せっかくのチャンスを無駄にしたくはない。
とりあえず付き合ってみて、好きになれなかったら別れるということなのだろう。
でも一度交際を始めてしまうと、よほどのことがない限り、別れを告げることは難しい。
すごく嫌いにならない限り、別れを言い出しにくいのではなかろうか。
だらだらと付き合いが続いてしまうことにはならないのだろうか。
幸い、B子の場合は愛が育まれて、現在も交際を続けている。
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ふと思い出したことがある。
NHKの朝の連続ドラマ「あまちゃん」の舞台となった岩手県久慈市。
私はこの街に大学1年の時にひとりで行ったことがある。
晩秋の寒い時期だった。
この街を訪れた理由は単純だった。
大学1年の時に交際した彼女にふられ、その彼女の故郷が久慈市だったのだ。
未練が残り、彼女の面影に苦しめられた。
その思いを断ち切るために、彼女の故郷に行くことにした。
彼女は大学にいるので、彼女に会いにいった訳ではない。
岩手県八戸市からローカル線に乗って久慈市に着いた。
海沿いにある小さな街だった。
小高い山に上って海を見ると、沖に小さな島が見えた。
海の青い色が、悲しみに満たされている私の心に沁みた。
私はスケッチブックを取り出すと、その風景を色鉛筆で描いた。
この悲しみを、ずっと残しておきたいという思いがあったからだ。
今から思うと、彼女は私のことが好きになり切れなかったのではないかと思う。
私が告白をして受け入れてくれたが、それは私のことが好きで受け入れてくれた訳ではないように思う。
B子が言うように、好きではないが嫌いではないので、とりあえず付き合ってみようという感じではなかったのか。
もっとも私の気持ちも、今から思うと定かではない。
彼女に惹かれるところは確かにあったが、違和感みたいな感覚もあった。
友人たちから「彼女は、おまえに合っていない」と言われていた。
自分の気持ちに確信がないまま、私は突っ走っていたのかもしれない。
大学1年の時のほろ苦い思い出だ。
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こう考えると、B子のような考えは、今も昔も変わらないのかもしれない。
できるだけ多くの異性と交際し、自分に合う異性を見つける。
これは理にかなった考え方なのだろう。
みんな青春なんだから、男も女もがんばって告白し、また告白されたら積極的に付き合えばいいのだよ。