ドアを開けて、一言もしゃべらずに、こちらを見ている。
A子の教育実習での様子は、すでに耳に入っていた。
ある先生が巡回指導で中学校を訪れ面談した際、A子が号泣したということを。
教育実習で指導を受ける教員から、かなり厳しく指導されていたようだった。
「教育実習、お疲れ様でした。」
私は、慎重に声をかけながらA子に近づいて行った。
「〇〇先生からA子の話を聞いたよ。」
「私が号泣したことを聞いたのね。」
「教育実習、辛かったんだね。」
「でもね、ホントはいい先生だったかも、と思っている。」
A子は教育実習のことを語り出した。
教育実習の様子(A子とは別のゼミ生)
教育実習の様子(A子とは別のゼミ生)
教育実習の指導教員は、厳しかった。
A子は授業を30時間も担当し、ほぼ一日中、授業をしていたときもあった。
そして授業後のコメントは「これじゃあ、教育実習の点はあげられないね。」というものだった。
実際に中学3年の男子生徒を上手にコントロールして、実技をやらせるのは至難の業だった。
自分の力不足は、A子も認めざるを得なかった。
このような教育実習の日々が続いた。
教育実習の様子(A子とは別のゼミ生)
教育実習の最終日、生徒たちと一緒にバスに乗って社会見学に出かけた。
帰りのバスの中、生徒たちがA子のために、お別れ会を開いてくれた。
生徒たちからお礼の言葉があった。
そして指導した教員が口を開いた。
「これまで教育実習生を何人も指導してきたが、その中でA子が一番頑張った。」
厳しかった指導教員から、A子をほめる言葉が出た。
思いもよらない言葉に、生徒がいる前にもかかわらず、A子は泣いた。
生徒ももらい泣きをした。
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語り終わるとA子は、1冊のノートを見せてくれた。
ノートの表紙には、教育実習で担当したクラスの生徒全員と指導した教員、そしてA子が写っている写真がはさみ込んであった。
大切にしている写真であることはすぐにわかった。
「教育実習は辛かったのだろうけど、でも大切で貴重な体験になったね。」と言葉をかけた。
そしてA子を一生懸命に指導してくれた中学校の教員に感謝した。