私が水道水を浄水器に入れていると…
「やっと見つけた。ずいぶん探したわ。」とゼミ4年生の声。
A子とB子だった。
教員採用試験の勉強をしている二人だ。
どうやら私を探していたらしい。
A子が言った。
「先生のズボン、いつもと違う。ベルトもおしゃれ。」
おしゃれと言われ、実はうれしかったが、そう簡単に嬉しがっては、ゼミ生に軽く見られてしまう。
そこで、あえて表情を変えないで、
「ふぅ~ん、いつものとおりだけど」
を応じておいた。
A子とB子は研究室に入ると、二人ともノートを取り出した。
「たいへんだった」とか「苦労した」などと、盛んに言い合っている。
教員採用試験の願書の受付が今日から始まったのだ。
志望動機や自己PRの文を苦労して書いたので、私に見てほしいというのだ。
(↑ 教員採用試験の願書を書くB子)
見せられたノートを見ると、なるほど、一生懸命書いた形跡が残っている。
昼休みで空腹だった私は、A子の差し出したノートをちょっと見てから、
「まっ、いいんじゃあないの」と軽く言った。
すると…
「先生! 適当! 私が何時間かかって書いたと思っているんですか!」
A子から鋭い声が飛ぶ。
B子も、しっかり見ろと言わんばかりに、ノートを突き出してくる。
A子とB子は、なかなか殺気だっている。
これはやばいぞを思い、空腹を我慢して、丁寧に読んだ。
「あのね、女の先生ではなくて、女性教員と表現した方がいいのではないかな」などと、コメントを出す。
二人に対していくつかのコメントを出したところ、納得したらしく、
「わかりました。また書き直して持ってきます。あ~あ、お腹すいた。」と言いながら、研究室を出て行った。
なんだ、二人ともお腹がすいていたのか。
二人が研究室にいたのは約20分間。
あっという間の出来事だった。
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その翌日…
今度はゼミ4年のC子が研究室に来た。
ある会社から内定をもらったが、受けようか辞退しようか、迷っているという。
C子は、授業がないのに、そのことを私に相談したくて、わざわざ大学に来たようだった。
「個人的には、その会社は辞退した方がいいと思う。」
私は率直な意見を言った。
実は、C子も辞退した方がよいかなと思っているらしかった。
ただ、辞退する電話をかけるのが嫌な様子だった。
私「まあ、辞退する電話はかけにくいが、一瞬で終わるよ。」
C子「………」
私「そんなに嫌だったら、D子に代わりに電話をかけてもらってもいいんじゃないの。」
C子「………」
ずっと迷い続けるC子だった。
C子は、昼前から午後5時まで、研究室であれこれ迷っていた。
もっとも私が会議で研究室を留守にしている間は、昼寝をしていたらしいが…
私が研究室に戻ってきた時、C子は寝ぼけていた。
C子「ファァ、先生~、留守の間、ファァ、お客さんが訪ねてきたよ、ファァ」
(↑ 寝ぼけているC子)
その後も、C子はなかなか帰ろうとはしなかった。
私は少し心配になって、時折声をかけた。
しかしC子の反応は鈍かった。
C子は何かにこだわり、辞退をするかどうか、決めかねているに違いなかった。
その姿は、女性のか弱さ、繊細さを思わせるものだった。
おそらく同年齢に男性にとっては、「守ってあげたい」と思わせ、C子の魅力を感じさせるものだろう。
(私は年配なので、何も感じないが…)
このようにして、C子の就活の戦いはまだまだ続くのであった。
そのうちに、ゼミ4年生のE子が研究室に、ハアハア言いながらやってきた。
教員採用試験の実技のために、ハードルの練習をしていたらしい。
実際には、ハードルなしで走っただけで疲れてしまい、ハードルの練習までいかなかったようだ。
「研究室に来ても、心臓がどきどきしている」とE子は疲れた表情で言った。
( 疲れた表情を見せるE子 右↑)
E子は、いつものように、苦虫をかみつぶしたような表情をして、
「もっと、体力をつけないといけない」と言った。
その真剣な表情が、第三者的には面白く(E子には怒られてしまうが…)、つい写真をとってしまった。
そのひたむきさが、E子の魅力だよ(ちょっと、フォロー)。
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このように、ゼミ4年生は、教員採用試験の準備や、会社の内定の辞退で、精神的にたいへんです。