2013年12月30日月曜日

金山の夜に笑い声が響く

12月29日午後6時。

金山アスナルのマツモトキヨシの前。

なつかしい顔がそろう。

今年の春卒業したゼミ14期生。

今日は同窓会。

久しぶりに会ったのに、まるで在学当時の雰囲気で、皆が集まっている。

同窓会なのに、単なるゼミのコンパという感じだ。

「先生!演習室に座椅子が入ったというじゃあないですか。私たちの時にはなかったのに…。今日は先生のおごり?」

ゼミの卒業生たちはなかなか手厳しい。

(注釈:スポーツで足腰を痛めているゼミ生は、卒業研究で長時間座っていることが苦痛なので、今年度から座椅子を導入した。)

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忘年会でにぎわう金山駅の近くの「桜坂」という店に入る。

そして同窓会が始まる。


(↑ 同窓会が始まった)


私が準備したゼミ卒業生それぞれに対するメッセージを書いた用紙を配布する。

皆そのメッセージを読んでいる。


(↑ 私のメッセージを読んでいるところ)
 

そして、あちこちで近況報告が始まる。

皆笑顔で語るが、仕事の話はハードな内容だった…。

「大学時代と違うことは、一日のなかで笑うことがなくなったこと。お客さん相手に愛想笑いはよくするが…」

「残業しても残業手当はなく、勤務して1年間はボーナスも出ない。」

「帰るのは早くて午後9時。だいたいは終電で帰る。夜食事はせず、1日2食。」(体重が大学時代より4キロ減ったとのこと)

「午前4時30分に起きて、7時前に職場について、皆が出勤する前に、仕事の準備をしている。」

「疲れて帰るので、どんなに空腹でも先に寝たいと思う。こんなことは大学時代にはなかった。」

ハードな労働環境だ。

そうかと思えば、ほぼ毎日午後5時30分に帰れる人もいた。

でもこの人は「パワハラの被害にあって、部署が変わった。」とのこと。

みんな、社会人になるとさまざまなことを体験している。

皆の近況報告を聞いていると、正直言って、胸が痛くなる。

ハードな労働環境を、ひいひい言いながら頑張っている。

心身が不調にならないか心配だ。

「こんなに働かせるなんて、日本の社会はどこかおかしい!」

こんな私でも、誰かに向かって叫びたくなる。


そして思ったことがある。

ゼミ卒業生の話を聞いていると、大学生はぬるま湯につかっているね~

朝早く起きれないとか、今日はやる気が起こらないと言って授業をさぼったり。

今のゼミ生の様子を見ていると、社会人になってしっかり務まるのかと心配になってしまう…

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店を出た後、プリクラを撮りに行く。

そういえば、在学当時もゼミのコンパの後はプリクラを撮りに言ったよな。

実は、若者に交じって、わたしのようなおじさんがプリクラの店に入るのは、非常に抵抗がある。

特に若い女の子たちから、じろじろ見られているような気がして、落ち着かない。

しかし、ここは我慢しなければならぬ。

それにプリクラは、ゼミ生たちがかわいく写るので(ほとんど詐欺だが)、見るのが楽しい。



 
 (↑ 皆でプリクラを撮った)
 

なつかしく、楽しい同窓会になった。

また皆で会おうね。
 

2013年12月26日木曜日

好きではないけど交際します

JR刈谷駅、午後6時20分。

ゼミ3年が顔をそろえる。

皆おしゃれをしている。

 
今から忘年会。

 費用は学園祭の収益金を当てるので、実質1000円の負担ですむ(不足分は私が払うことになっている…)。

 サラリーマンが集う居酒屋で、学生にしてはやや高級な店。

 掘りごたつだったが、テーブルが狭いので、身を寄せ合って座る。

 忘年会が始まった。





酒が進むにつれて、A子がB子に尋ねる。

「彼とどんな風に付き合い始めたの?」

すると…

「告白された時、好きではなかったけど、嫌いではなかったので、付き合うことにした」とB子は言った。

「ええ〜、マジ〜」と私は言った。

好きではないのに交際を始めることは、私には考えられない。

私は疑問に思い、質問を重ねる。

「それって、どいうこと?…」

「男の人に私から告白できないし、せっかく告白されたので、このチャンスを大切にしたいと思って…」

 確かに一理はある。せっかくのチャンスを無駄にしたくはない。


とりあえず付き合ってみて、好きになれなかったら別れるということなのだろう。

でも一度交際を始めてしまうと、よほどのことがない限り、別れを告げることは難しい。

すごく嫌いにならない限り、別れを言い出しにくいのではなかろうか。

だらだらと付き合いが続いてしまうことにはならないのだろうか。

幸い、B子の場合は愛が育まれて、現在も交際を続けている。

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ふと思い出したことがある。

NHKの朝の連続ドラマ「あまちゃん」の舞台となった岩手県久慈市。

私はこの街に大学1年の時にひとりで行ったことがある。

晩秋の寒い時期だった。

この街を訪れた理由は単純だった。

大学1年の時に交際した彼女にふられ、その彼女の故郷が久慈市だったのだ。

未練が残り、彼女の面影に苦しめられた。

その思いを断ち切るために、彼女の故郷に行くことにした。

彼女は大学にいるので、彼女に会いにいった訳ではない。

岩手県八戸市からローカル線に乗って久慈市に着いた。

海沿いにある小さな街だった。

小高い山に上って海を見ると、沖に小さな島が見えた。

海の青い色が、悲しみに満たされている私の心に沁みた。

私はスケッチブックを取り出すと、その風景を色鉛筆で描いた。

この悲しみを、ずっと残しておきたいという思いがあったからだ。

今から思うと、彼女は私のことが好きになり切れなかったのではないかと思う。

私が告白をして受け入れてくれたが、それは私のことが好きで受け入れてくれた訳ではないように思う。

B子が言うように、好きではないが嫌いではないので、とりあえず付き合ってみようという感じではなかったのか。

もっとも私の気持ちも、今から思うと定かではない。

彼女に惹かれるところは確かにあったが、違和感みたいな感覚もあった。


友人たちから「彼女は、おまえに合っていない」と言われていた。

  自分の気持ちに確信がないまま、私は突っ走っていたのかもしれない。

  大学1年の時のほろ苦い思い出だ。

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こう考えると、B子のような考えは、今も昔も変わらないのかもしれない。

できるだけ多くの異性と交際し、自分に合う異性を見つける。

これは理にかなった考え方なのだろう。

みんな青春なんだから、男も女もがんばって告白し、また告白されたら積極的に付き合えばいいのだよ。




2013年12月21日土曜日

心やさしいゼミ生

卒業研究の本文の提出が終わり、次は抄録の提出。

12月17日火曜日の午後。


ゼミ生4年が、のそのそと演習室に集まってきた。

締め切りが迫っているため、今日中に抄録を完成させなければならない。





(↑ 演習室の様子)


抄録の下書きを見ると、あいかわらずデキはよくない。

書式はかなり不十分。

内容も、特にゼミ一番のサボリ屋のA男は悲惨な状況だった。

午後5時30分になっても完成したゼミ生は数人だけ。

私はこれから会議で、戻ってくるのがおそらく午後8時過ぎ。

私は言った。

「俺が戻って来るまで、遊ばずに、皆で協力し合って抄録を仕上げるんだよ。」

まあ、このゼミ生たちのことだから、遊んでしまうだろうと内心思っていた。

午後8時30分過ぎ、やっと会議が終わって演習室に戻ることができた。

待ち構えていたように、ゼミ生たちが抄録を持ってくる。

抄録を見て驚いた。

合格ラインには届かないものの、完成度はかなり上がっている。

悲惨だったA男の抄録も、とてもわかりやすい文章になっている。

「この前書き、誰かに教えてもらったな。」と思わず口にした。

私が会議で不在にしている間、皆で見せ合い、教え合っていたようだった。

午後9時頃、とうとうA男も合格をもらって抄録を完成させた。

A男は、彼女との待ち合わせの時間に1時間半も遅れ、焦っていた。

「メールを送っても返信がない…」

そりゃ、1時間半も待たされたら怒るだろうな。

「こうなったら、仲直りのためにホテルに行って~」とA男。

「わぁ~、リアル~」と女の子たち。

A男はそそくさと帰って行った。


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多くのゼミ生が抄録を完成させる中…

B男は取り残されていた。

「俺は遅くなってもいい」

B男はそう思って、私が会議で不在にしている間、皆に抄録を見てもらわず、ひとりで取り組んでいた様子だった。

B男の抄録は、皆と比較すると、かなり完成度が低かった。

「この抄録、誰にも見せてないな。」

私は言った。

書式だけでなく,内容の書き方も他のゼミ生とかなり異なっていた。

他のゼミ生が見ていたら,この書き方が違うことにすぐに気が付くはずだ。

この抄録を修正するには,おそらく1時間半から2時間かかると思った。

深夜12時を過ぎてしまう…

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その時,演習室にはB男を含め,4人のゼミ生が残っていた。

その中でA子だけが,すでに抄録を完成させていた。

しかし、帰らずに演習室に残って,皆の抄録の手伝いをしていたのだった。

私はB男に言った。

「A子に抄録を見てもらえ。」

A子はB男の隣に座ると,抄録を手伝い始めた。

 



 (↑ 手伝っているA子:午後9時45分頃)





私がこっそり聞いていると,A子はかなり具体的に指示をしている。

「この部分はね,~のように書いて。」

B男はそのとおりにパソコンに打ち込む。

しばらくして…

 「抄録ができました。」とB男が言った。

私が抄録を手に取り,読み始めた。

すると…

A子が私のそばに来て,体をぎりぎりに寄せ,膝立ちをした。

両手は腰に当てられ、仁王立ち。

威嚇するオーラが私に降り注ぐ。

 「私とB男が一緒に作った抄録を,いちゃもんつけたら許さないわよ。」という無言の圧力。

「わぁ,A子の雰囲気,怖いよ~」と他の女の子が笑う。


その抄録の完成度は高かった。

わずかの時間に,B男の抄録は変貌を遂げていた。

正直言って,A子の実力に驚いた。

いつの間に,抄録の書き方のポイントを身につけたのだろうか…

数か所の手直しで,B男の抄録は完成した。

午後10時20分だった。










(↑ 研究室の時計)





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痛烈に思ったことがある。

やはり自分ひとりで取り組んでいたら進歩は遅い!

皆と協力し合うことが,ここまで完成度をあげるんだ!

もちろん,このことは以前からわかっていた。

だからこそ笹竹ゼミでは,テーマは異なるものの,皆と一緒に作業する寺子屋方式を取っている。

皆が一緒になると,確かに遊んでしまう危険性はある。

しかし,皆が一緒にいれば,助け合うことだってある。

このゼミ生たち全員が,改めて私に教えてくれたことだ。

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 午後11時少し前。

最後まで残ったゼミ生4人と私は演習室を出た。

ゼミ生の車に乗せてもらい,途中でB男をアパートで降ろし,A子とB子と私は大府駅に到着。

名古屋方面の電車が停車している。

A子とB子はあわてて飛び乗った。



ところが…

A子とB子が乗った車両は切り離されており,前方の車両だけが出発。

A子とB子は取り残されてしまった。

「わぁ~,わぁ~,ぎゃぁ~,ぎゃぁ~」

言葉にならない笑い声が,人影が途絶えた大府駅に響く。

二人は,別のホームで次の列車を待つことになった。








 
(↑ 二人の笑い声が大府駅に響いていた)
 




それにしてもA子は心がとても優しい。

ゼミ生を助けてくれてありがとう。

A子に感謝です。
















2013年12月13日金曜日

午後10時の演習室


卒業研究の本文の提出が迫っていた。

今年の4年生は,特に取り組みが遅い。

本文の締め切りに間に合わない危険性があるゼミ生が4~5人いる。

特に危険性の高いゼミ生とは…

 

A男は,愛想はよく皆から好かれているが,根気がない。

卒業研究をやらずに,すぐに遊んでしまう。

授業もよくサボったので,4年になってから30単位も取らないといけない状況だ。

B男は,能力的には高いのだが,無気力状態。

やる気が出ないと言って,卒業研究をやろうとしない。

C子は,愛想は抜群で,ゼミの最中に調子に乗って踊ったりするなど,にぎやかだ。

でも集中力がなく,卒業研究をやらずに,すぐに遊んでしまう。

 

この3人は卒業研究が間に合わない危険性が高いので,保護者に電話した。

「あの~,〇〇さんは,その~,卒業研究の取り組みが悪くて,締切が迫っているのですが,間に合わない危険性があります…」

保護者に電話するなんて,普通はしない。

する必要はないのかもしれない。

大学4年生は20歳を過ぎた成人であって,子どもではないのだから。

ただ親の立場になって考えると,卒業できないとなれば,大学から正確な情報を事前に教えてもらいたいと思うはずだ。

だから3人のゼミ生の保護者に電話した。

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そして,締め切りが迫ったある時,A男に再度言い渡した。

「卒業研究は間に合わない。卒業はできない。」

するとA男は怒り出した。

机を数回たたき,声を荒げて,

「先生の指導が急に丁寧になった。なぜこれまで丁寧に指導しなかったのか」

こんなA男を見たのははじめてだった。

 

その日の昼休みに,私が歯を磨いていたら,A男が寄って来て言った。

「さっきは,むきになってすみませんでした。」
 

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その日の夜…

B男のアパートの部屋。

ゼミ生4人が集まっていた。

A男,B男,そしてD子とE子だった。

卒業研究がかなり遅れているA男とB男を助けようと,D子とE子が応援に駆けつけたのだ。

A男とB男は協力しあいながらデータを入力し,D子とE子が分析方法を教えた。

D子とE子は、卒業研究を午前1時頃まで手伝った。

A男とB男は,その後も寝ることなくパソコンのデータと戦っていた。

 

私がなぜこのことを知っているかと言えば,午後11時過ぎにD子から電話をもらったからだ。

今,B男のアパートで卒業研究をやっていると。

 

おそらく数日間,あまり寝ることなく卒業研究に取り組んだおかげで,A男とB男はなんとか卒業研究の形は整ってきた。

もちろん,内容は乏しいが…,そこは目をつぶった。
 

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125日本文提出の直前のゼミ。

皆あせって卒業研究に取り組んでいる。

普段のゼミから,このような真剣な表情を見たかった…

「〇〇!こんなところで寝ていてはじゃま!」

「〇〇!うるさい!踊らないで!」

あちこちから,声が飛ぶ。

なかなか本文が完成しない。

とうとう午後10時になってしまった。
 

 
(↑ 午後10時頃の演習室の様子)
 
 

どこの研究室も明かりが消えている。

ただ,笹竹ゼミの演習室だけが照明がつき,ゼミ生たちの明るい声が聞こえてくる。



(↑ 午後10時頃の演習室の様子)

 

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1212日木曜日,卒業研究の本文の提出の当日。

提出する会場に,ゼミ生たちが卒業研究の本文を持ってやってきた。

A男とB男,そして自分で頑張ったC子も,卒業研究の本文を持っている。

なんとか間に合ったのだ。

これで卒業できる可能性が出てきた。

もっともA男とB男は,書式の不備のため受理されず,再提出になってしまったが…

 

D子の卒業研究の本文の「おわりに」はこう書かれてあった。

「土壇場になって,ゼミの団結力はすごかった」

 

他のゼミ生のおかげでここまで来れたことを,A男,B男はよく覚えておくんだよ。

ひとりで頑張っていたら,絶対に間に合わないはずだ。

まだ抄録の作成と発表が残っているので,まだ油断できないけどね。