2013年8月13日火曜日

思い出の中のゼミ生(1)~野生的に生きる~

笹竹ゼミの歴史の中で、特に印象深かったゼミ生たちが何人かいる。

夏休みでネタがないので、そのうちの一組のゼミ生のことを書こうと思う。

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とても仲の良い3人がいた。

A子、B子、C子である。

A子は目がパッチリしていて、「喋らず黙っていれば」美人に見えた。

実際に若手の写真家から、モデルを頼まれたこともあった。

B子はリーダーシップがとれる子で、しっかり者。

ゼミの募集の時、「私、ゼミ長になりたいです」と言って、応募用紙を研究室に持参してきた。

C子はずっとガールスカウトをしてきており、人を魅了するオーラを持っていた。

C子の卒業研究発表を聞いた後輩が、「あんな先輩になりたい」と言っていたほどだった。

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この3人の共通点は、かなり個性が強いことと、ぶっ飛んだエネルギーを持っていることだった。

3人集まると、にぎやかで(うるさくて)、積極的(勝手気ままに)になり、活動的(やりたい放題)になった。

たとえば…

研究室にお菓子やパンがあれば、私に無断で食べ尽くした。

机の引き出しに隠してあっても、不思議に探し出していた。

ある時、私がおやつにと楽しみにしていたポテトチップスが被害にあった。

私が会議で研究室を留守にすると…

さっそく彼女たちはポテトチップスを探し出し食べた。

食べ終わると、菓子袋にティッシュを丸めて詰め込んだ。

そしてホッチキスで菓子袋の口をとめ、ばれないように細工をした。

そして元の場所に戻した。

私が会議から戻ると、何食わぬ顔をして、

「先生、会議、お疲れ様でした。私たち帰ります。」

その後、休憩しようと思って、私がポテトチップスを手に取ったところ…

「ん? 何か軽いな。こんなものかな。」

そして袋を破ろうとしたところ、ホッチキスでとめてあるではないか。

よくよく見ると、隙間からティッシュが見えた。

「しまった。やられた!」

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ある時、ゼミで社会見学に出かけた。

確か、裁判所あるいは県警察本部に行ったので、皆スーツを着ていた。

A子は「大人になった気分」などと言ってはしゃいでいた。

そして地下鉄の駅に来たとき…

A子は私に近寄ってくるなり、

「ひでほ~」と甘えた声を出し、強引に私と腕を組んできた。

「俺の方がセクハラで訴えられるからやめろよ」と私。

A子はますます面白がって、「ひでほ~」と連呼していた。

地下鉄の駅は多くの人が行き来しており、私は恥ずかしい思いをした。

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卒業研究の中間発表の時のことだった。

発表中、キーワードを説明した後に、

「さあ、みなさんもご一緒に、せ~の~!」

こう言って、会場の皆にキーワードを声をそろえて言うように促した。

もちろん、声を出してキーワードを言ったのは、笹竹ゼミ4年生だけ。

後の学生たちは、突然のことに、ポカ~ンとしていた。


(この様子を見学した2年生のレポートには…)

「型破りな発表で、はじめはふざけているのかと思った。

しかし内容はかなりまじめだったので、またおどろいた。」

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こんな感じで、3人との戦いの日々が続いていた。

やりたい放題だったので、これまで教育を受けてきたのだろうかと、疑問に思ったほどだった。

私には、野性的に生きているとしか思えなかった。

ただ、いたずらばかりしていたわけではない。

溢れ出るエネルギーをゼミ活動にも向けていた。

ある仮装マラソン大会にゼミで出ることを企画して、皆で衣装を制作し、努力賞を獲得したことがあった。

この時の賞状は、現在も研究室に飾ってある。



 


またゼミ新聞を発行することを企画し、毎月一生懸命制作していた。

この時のゼミ新聞の名残が、現在も研究室のホワイトボードに貼ってある。





卒業時に、ゼミの卒業文集を作成したのは、後にも先にも、このゼミ生たちだけだった。





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卒業式を待つばかりとなった2月初旬、私は研究室で仕事をしていた。

ちょうど机の上には、お菓子が置いてあった。

遠くから女の子たちの明るい笑い声が聞こえてくる。

そして、だんだん研究室に近づいてくる。

「A子、B子、C子だ!」

そう思った瞬間、私はお菓子をさっと掴み、引出しの中に隠した。

自分でもびっくりするほど俊敏な動きだった。

いつの間にか、私の体は、無意識的に反応をするようになっていた。


女の子の笑い声
    ↓

A子・B子・C子に違いない
    ↓

お菓子を食べられる
    ↓

隠さないとヤバイ


やがて、女の子たちの明るい笑い声は、研究室の前まで来た。

そして…

そのまま、女の子たちは私の研究室を通り過ぎて行ってしまった。

「なんだ、A子たちではなかったのか…」

私は安堵した。

お菓子を食べられなくて済んだからである。

そして、こう思った。

「彼女たちが卒業したら、お菓子を隠さなくて済むんだな~。楽になるな~。」

その瞬間、急に激しいさびしさがこみ上げてきた。

もう、彼女たちと会えなくなる。

お菓子を隠さなくて済むことは、別れを意味していた。

その事実が持つ意味が、実感となって私の体を走り抜けた。

野生人のようで、自由気ままなふるまいだったけど、明るくて元気で、気持ちのいい女の子たちだった…

その時、彼女たちとの戦いの日々が、とても愛おしく感じられた。

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ゼミの卒業旅行の二日目、私はゼミ生を残し、先に帰らざるを得なかった。

私の長男の卒業式に当たっていたからである。

卒業式に間に合うためには、早朝6時にタクシーに乗ってホテルを出なければならない。

そのことはゼミ卒業旅行を計画する段階で、ゼミ生は承知していた。

そして前日の夜に、ゼミ生には、午前8時に起きて朝食を食べるように伝えてあった。

翌朝、誰もいないホテルの玄関前で、私はタクシーに乗り込んだ。

ちょうどその時、どこからともなく、ゼミ生たちがタクシーのそばにすーと現れた。


「先生、ありがとう、気を付けてね。」

皆、口をそろえて言った。

私を驚かせようと、どこかに隠れていたらしい。

「あれ~、お前たち…見送りに…」

私はびっくりし、そして感激した。

早朝6時に起きるのは、たいへんだっただろうに…

おそらくあの3人が、私を驚かそうと思って考えたことだろうと思った。

私はタクシーのなかで涙ぐんだ。

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卒業してから、何年かが経ち…

A子は、教員採用試験に合格して教員になった(ちゃんと教員を務めているのだろうか…)

B子は、体育教室の指導者を務めた後、結婚して子どもが生まれた。

C子は、看護師になることを決意して、専門学校に入学し、現在は看護師として勤務している。


3人集まらなければ、皆しっかりできるんだね…。