私も,学生たちの実習先に訪問することになる。
今年は,ゼミ生2人を私が担当することになった。
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まず田舎の県立高校で教育実習を行っているA子を訪ねた。
教育実習に入る前に,私はA子に念を押していた。
「この地図に,高校の正門を記入しておいて。そうでないと正門を探し回らないといけないので。」
A子は,高校の正門に印を付けて,私に教育実習の資料を持ってきた。
当日,最寄りの駅で下車し,私はA子の作成した地図を頼りに,高校に向かって歩き始めた。
おそらく順調に歩けば,15分ぐらいで高校に到着するはずだ。
ところが…
A子の作成した地図どおりに歩いていると,途中からどんどん田舎に入っていく。
山に囲まれた田をぬうようにして,道が続いている。
こんな山奥に高校があるのかな…
人も車も通らない…
しかし,やがて高校が見えてきた。
地図を確認して,正門を入ろうとすると…
これって,正門?
柵があって入れないようになっている。
(↑A子が教えてくれた“正門”)
気を取り直して,横から入れるかもしれないと思い,付近を探索した。
しかし,厳重な囲いがしてあった。
「A子にやられた! 」
私は,すばやく元の道を引き返し,どこで間違えたのかを調べ始めた。
途中で,広い道から外れている分岐点があった。
この広い道を進んでいこう。
私は高校の正門を探しながら走った。
幸い,高校の正門を見つけることができた。
約束の5分遅れで,職員室に顔を出したのだった。
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A子は普段から天然ぼけのタイプで,ミスはするが,憎めないところがあった。
教育実習でもミスの連続の様子だった。
生徒に走り幅跳びの説明をしたところ,その説明が間違っていて,生徒に舌打ちされたりしていた。
担当の指導教員に教育実習の日誌を提出したところ,「単なる私的な日記」と言われて返された。
A子は,「私,いろいろ、やらかしています」と元気なく言った。
食欲はなく,朝になって学校の行く時になると,吐き気がするという。
大丈夫かな,と私は心配になった。
(「私、やらかしています」と自虐気味のA子)
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教育実習が終わってみると,たいへんなのはA子だけではなかった。
ゼミ生のB子もけっこう大変だったらしい。
帰宅するのは午後10時過ぎがあたりまえ。
指導の担当教員以外に,厳しい教員がいて,よく注意された。
教育実習の最終日も,授業で資料を配付する時間がなくなってしまったので,担任にお願いをした。
そしたら,「担任に資料の配付を任せるって,どういうこと!」と厳しく注意されたという。
その日の夜,教育実習が終了したので,飲み会があった。
B子は,その厳しい教員の顔を見ていると,涙が止まらなくなってしまった。
そしてトイレに閉じこもって泣いた。
先生方が心配して,トイレにやってきて「出ておいで」と声をかけた。
B子は「気持が落ち着いたら,戻ります。」と応えた。
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こんな話を演習室で他のゼミ生に話ながら,B子は言った。
「もう二度と,あの学校には行きたくない。」
よほど辛い思いをしたのだろう。
A子もB子も,かなり辛い教育実習だったようだ。
まあ,社会の厳しさを少し体験できたことは,今後に役に立つと思うよ。